水質関係の公害防止管理者試験の中でも、一気に専門性が上がるのが「汚水処理特論」です。処理技術の仕組みや計算問題への理解が必要になるため、最初は難しく感じる方も多いと思います。この記事では、押さえておきたい分野と、特に重要な計算式を一次情報にもとづいて整理しました。
この記事で分かること
- 汚水処理特論で扱う主な処理技術の全体像
- 物理・化学処理法の仕組みと薬品・条件
- 活性汚泥法の計算式(BOD負荷・SVI・汚泥生成量・酸素消費量・汚泥返送率)
- 硝化・脱窒・嫌気性処理などその他の生物処理
- BOD・COD・SSなどの測定方法
汚水処理特論とは
汚水処理特論は、一般社団法人産業環境管理協会(JEMAI)が実施する公害防止管理者等国家試験のうち、水質関係区分の試験科目の一つです。水質関係の試験は5科目で構成されており、汚水処理特論では物理化学的・生物学的な処理技術と、水質測定法についての専門知識が問われます。[1]
水質概論が水質汚濁防止のための制度・現状を扱うのに対し、汚水処理特論はその汚れを実際にどう処理するかという技術・計算問題が中心です。
試験で押さえたい主要分野
汚水処理特論が扱う範囲は多岐にわたるため、この記事では学習しやすいよう次の4つに整理して紹介します。この分類はJEMAIの公式な科目区分ではなく、EcoLog独自の学習用整理である点にご注意ください。
| 分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 物理・化学処理法 | 沈降分離・凝集沈殿・ろ過・中和・酸化還元など |
| 生物処理法 | 活性汚泥法(計算問題含む)・硝化脱窒・嫌気性処理・生物膜法 |
| 汚水処理施設の維持管理 | 運転管理・汚泥処理 |
| 測定技術 | BOD・COD・SS測定法、重金属等の分析法 |
物理・化学処理
沈降・凝集・ろ過
沈降分離は、重力によって固形物を沈殿させる最も基本的な処理法です。凝集沈殿では、硫酸アルミニウムやPAC(ポリ塩化アルミニウム)などの凝集剤を使ってコロイド粒子を集め、フロックとして沈殿させます。ろ過は、砂や活性炭などを用いてSS(浮遊物質)を除去する処理で、凝集沈殿の後処理として使われることが多い処理法です。
中和・酸化還元
中和処理は、酸性・アルカリ性の廃水のpHを調整する処理です。酸性廃水には石灰や水酸化ナトリウム(NaOH)などが使用されます。
六価クロムを含む廃水は、まず還元剤(硫酸第一鉄や亜硫酸水素ナトリウムなど)で毒性の低い三価クロムへ還元し、その後pHをアルカリ性(pH8〜9程度)に調整することで水酸化クロムとして沈殿・除去するという、還元と沈殿の2段階で処理されます。[2]水質汚濁防止法の六価クロム化合物に関する排水基準は、2024年4月1日から0.5mg/L以下から0.2mg/L以下へ強化されています(電気めっき業には暫定基準として0.5mg/Lが3年間適用)。[3]
シアンを含む廃水は、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を用いる「アルカリ塩素法」で処理されるのが代表的な方法です。強アルカリ性の条件下でシアンを酸化してシアン酸へ変え、続けて中性に近い条件でさらに酸化を進め、最終的に無害な窒素ガスと二酸化炭素へ分解するという2段階の反応で進みます。反応の進み方はpH管理に大きく左右されるため、各段階でのpH調整が重要とされています。[4]
汚泥処理
処理の過程で発生する汚泥は、重力濃縮・遠心脱水・加圧脱水などの方法で減量化されます。それぞれの脱水法は、対象となる汚泥の性状によって使い分けられます。
活性汚泥法
基本フロー
活性汚泥法は、微生物(活性汚泥)を含む混合液を曝気槽で有機物と接触させて分解し、最終沈殿池で汚泥と処理水を分離する処理法です。沈殿した汚泥の一部は曝気槽へ返送汚泥として戻され、残りは余剰汚泥として系外へ引き抜かれます。
BOD負荷
BOD負荷(BOD容積負荷)は、曝気槽の容積1m³あたり、1日にどれだけのBOD量(kg)が流入するかを示す指標です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 式 | BOD容積負荷(kg/m³・日)= 流入BOD濃度(mg/L)× 流量(m³/日)÷ 曝気槽容量(m³)÷ 1000 |
| 単位換算の注意 | mg/Lとm³を組み合わせるため、最後に1000で割ってkg単位へ揃える必要があります。この換算を忘れると計算結果の桁数が1000倍ずれてしまいます |
| 目安値 | 標準活性汚泥法でおおむね0.3〜0.5kg-BOD/m³・日程度 |
例えば、流入BOD濃度200mg/L、流量1,000m³/日、曝気槽容量2,000m³の場合、BOD容積負荷=200×1,000÷2,000÷1,000=0.1kg-BOD/m³・日となります。[5]
SVI
SVI(汚泥容量指標)は、活性汚泥の沈降性の良し悪しを示す指標です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 式 | SVI(mL/g)= 30分後の汚泥沈降容量(mL/L)÷ MLSS(g/L) |
| 単位換算の注意 | mL/LとMLSS(g/L)をそのまま割るとmL/gの単位になります。旧来「×1000」を付ける説明も見られますが、この単位の組み合わせでは不要です |
| 評価の目安 | おおむね50〜150で良好、150〜200で要注意、200以上でバルキング(汚泥が沈降しにくくなる現象)が疑われます。ただしこれは運転管理上の目安であり、絶対的な合否基準ではありません |
例えば、30分後の汚泥沈降容量が300mL/L、MLSSが2g/Lの場合、SVI=300÷2=150mL/gとなります。[6]
汚泥生成量・酸素消費量
活性汚泥法では、除去したBODの一部が新たな微生物(余剰汚泥)に変換され、残りは微生物の呼吸によって分解されます。この関係は次の式で表されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 汚泥生成量の式 | 汚泥生成量 = a × BOD除去量 − b × MLVSS × V |
| 酸素消費量の式 | 酸素消費量 = a′ × BOD除去量 + b′ × MLVSS × V |
| 記号の意味 | a(汚泥転換率):除去BODが汚泥に変換される割合。a′は酸素消費側の対応する係数 b(自己酸化率):微生物が自らの体を分解(内生呼吸)する割合。b′は酸素消費側の対応する係数 MLVSS:曝気槽内の微生物量(有機性浮遊物質濃度)、V:曝気槽容量 |
| 係数について | a・bの具体的な値は、廃水の性状や運転条件によって処理場ごとに大きく異なります。本記事では特定の数値を「標準値」として断定せず、各処理場の設計・運転データにもとづいて設定されるものとして扱います |
2つの式は表裏の関係にあります。除去したBODのうち、汚泥として増える分(汚泥生成量の式)と、微生物の呼吸で消費される分(酸素消費量の式)に分かれるとイメージすると理解しやすくなります。[7]
汚泥返送率
汚泥返送率は、最終沈殿池で沈んだ汚泥のうち、どれだけの割合を曝気槽へ戻しているかを示す指標です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 式 | 返送率 R(%)= 返送汚泥量 Qr ÷ 流入水量 Q × 100 |
| 目的 | 曝気槽内のMLSS濃度を一定に維持するために調整します |
例えば、流入水量1,000m³/日に対して返送汚泥量が600m³/日の場合、返送率R=600÷1,000×100=60%となります。
汚泥返送率は近年出題が増えている論点です。計算の手順だけでなく、「なぜ返送するのか」という目的まで理解しておくと、応用問題にも対応しやすくなります。
その他の生物処理
硝化・脱窒
硝化は、硝化菌(ニトロソモナス・ニトロバクター等)がアンモニアを硝酸に変換する反応です。この反応には酸素が必要なため、曝気による十分な溶存酸素(DO)の確保された好気条件で進みます。硝化菌はpH8前後で最も活発に働き、pH6以下では活動が著しく低下します。[8]
脱窒は、脱窒菌が硝酸を窒素ガスへ還元する反応で、至適pHは7〜8程度とされています。脱窒は溶存酸素がほとんどない「無酸素(アノキシック)」条件で進みます。「嫌気」条件と表現されることもありますが、脱窒が必要とするのは硝酸を利用できる無酸素条件であり、後述する嫌気性処理(メタン発酵)が必要とする、酸素も硝酸もない厳密な嫌気条件とは異なる点に注意が必要です。[9]
嫌気性処理
嫌気性処理は、メタン生成菌などの働きにより、酸素を使わずに有機物を分解し、メタンガスを発生させる処理法です。高濃度の有機性廃水の処理に向いています。
生物膜法
生物膜法は、担体の表面に微生物の膜を形成させて処理を行う方法で、散水ろ床や回転円板法などがあります。活性汚泥法との違いとして、微生物を浮遊させず固定担体上で保持する点が出題されやすいポイントです。
水質測定
BOD測定
BOD(生物化学的酸素要求量)は、試料を20℃で5日間培養し、培養前後の溶存酸素量の差から算出します。この「20℃・5日間」という条件は、JIS K0102(工場排水試験方法)に規定された公定法の条件です。[10]
COD測定
日本の公共用水域の環境基準では、COD(化学的酸素要求量)の測定に過マンガン酸カリウムを用いる方法(CODMn)が基本の公定法として使われています。淡水の河川・湖沼では酸性条件下で測定する「酸性法」が、塩化物イオン濃度の高い海域では酸性法だと正確な値が出にくいため、アルカリ性条件下で測定する「アルカリ性法」が用いられます。いずれも酸化剤自体は過マンガン酸カリウムです。二クロム酸カリウムを使う測定法(CODCr)は主に欧米で使われる方式で、日本の公共用水域の環境基準における公定法としては一般的ではありません。[11]
SS測定
SS(浮遊物質量)は、孔径1μmのガラス繊維ろ紙で試料をろ過し、105〜110℃で2時間乾燥させたあとの重量から算出します。[12]
重金属等の測定
カドミウムや鉛などの重金属の測定には、原子吸光法(AAS)やICP発光分光分析が用いられます。原子吸光法は元素固有の波長の光を吸収させて濃度を測定する方法、ICP発光分光分析は高周波プラズマで試料を発光させ、複数の元素を同時に定量できる方法です。
効率的な勉強法
汚水処理特論は覚える量が多く感じられますが、「処理法の仕組み」「計算式が何を求めているか」「測定法の使い分け」を一つずつ理解していくと、確実に得点できる分野になります。
試験対策上のアドバイスとして、公式を丸暗記するのではなく、まず「この式は何の量を求めているのか」を言葉で説明できるようにすることをおすすめします。BOD負荷やSVIのように単位の扱いが紛らわしい式は、具体的な数値を代入して一度自分で計算してみると、感覚として身につきやすくなります。
よくある質問
- 汚水処理特論と水質概論の違いは何ですか?
- 水質概論は水質汚濁防止のための法制度・環境基準・現状を扱う科目です。汚水処理特論はその汚れを実際にどう処理するかという処理技術・計算問題が中心です。
- BOD負荷の計算で単位を間違えないコツはありますか?
- mg/L・m³/日・m³という異なる単位を扱うため、最後にkg単位へ揃える1000での割り算を忘れないことが重要です。慣れるまでは、単位を式の横に書きながら計算する方法がおすすめです。
- 脱窒はなぜ「嫌気」ではなく「無酸素」と呼ぶのですか?
- 脱窒菌は硝酸を酸素の代わりに利用して呼吸するため、溶存酸素はなくても硝酸は必要とします。この状態を「無酸素(アノキシック)」と呼び、酸素も硝酸も存在しない厳密な「嫌気」状態とは区別されます。
まとめ
汚水処理特論は専門的で難しく感じる科目ですが、「処理法の仕組み」「計算式の意味」「測定法の使い分け」を一つずつ理解すれば、確実に得点源にできる分野です。特に活性汚泥法の計算式は、単位換算まで含めて正確に理解しておくことが得点への近道です。
水質概論とあわせて学習することで、水質汚濁防止の「制度」と「技術」の両面を理解できます。
参考資料・出典
- 一般社団法人産業環境管理協会(JEMAI)「国家試験|公害防止管理者」 JEMAI公式サイトを見る
- 複数の水処理専門情報源による収斂確認(六価クロムの還元・沈殿処理のpH条件・還元剤に関する一般的知見) ※政府一次情報での直接確認ができなかったため、複数の技術系情報源の記述が一致することを確認したうえで採用しています
- 環境省「水質汚濁防止法施行規則等の一部を改正する省令の公布について」 環境省の発表資料を見る
- 複数の水処理専門情報源による収斂確認(シアン化合物のアルカリ塩素法による酸化分解処理) ※政府一次情報での直接確認ができなかった項目です
- 複数の水処理技術情報源による収斂確認(BOD容積負荷の標準式・標準値) ※政府一次情報での直接確認ができなかった項目です
- 複数の水処理技術情報源による収斂確認(SVIの標準式・評価基準) ※政府一次情報での直接確認ができなかった項目です
- 複数の水処理技術情報源による収斂確認(汚泥生成量・酸素消費量の標準式) ※政府一次情報での直接確認ができなかった項目です
- 複数の水処理技術情報源による収斂確認(硝化菌の至適pH・DO条件) ※政府一次情報での直接確認ができなかった項目です
- 環境省「生物学的脱窒素処理技術・システム」 環境省の資料を見る
- 複数の水処理技術情報源による収斂確認(JIS K0102 工場排水試験方法、BOD測定条件)
- 環境省「生活環境の保全に関する環境基準(海域)」 環境省の解説ページを見る
- 環境省「浮遊物質量(SS)の測定方法」 環境省の資料を見る
※ 上記の出典は2026年8月時点で確認したものです。一部の技術的な計算式・処理条件については、政府機関が公開する一次資料(日本下水道協会の設計指針等は有償刊行物のため確認不可)の全文を直接確認できなかったため、複数の独立した技術系情報源の記述が一致することを確認したうえで採用しています。法令・基準値・測定法等の一次情報が明確なものはそちらを優先しています。規制内容は今後変更される可能性があるため、最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。